石けんは私たちの生活においてなくてはならない存在です。朝起きて洗顔をし、外から戻ってきたら手洗い、夜にはお風呂で体や髪の毛を洗い、一日に数えきれないほど石けんを使っています。このほかにも、食器洗いや洗濯にも石けんは使われます。これだけでも、私たちは実に多量の石けんを排水溝に流しているのかが分かります。これが化学合成物質を含む石けんや洗剤であれば、環境に及ぼす影響は多大です。手作りの石けんは肌にも地球にもやさしいといわれていますが、合成石けんと比較してどのような点が環境にやさしいのか、それではなぜ合成石けんは良くないのか理由を探ってみましょう。
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自然に還る石けん
石けんは油脂と苛性ソーダ(アルカリ)水を混ぜてできた産物のため、化学合成物質を含みません。そのため、排水として流れた石けんは、水と二酸化炭素に生分解されます。石けんカスは微生物の栄養源として最終的には魚などのエサになり、再び自然に還ります。一方で、合成界面活性剤などを含む化学合成石けんや洗剤は、生分解されるまでに時間がかかり蓄積されることもあるため、人体や環境に影響を与えることが分かっています。最近では自然環境保護のために生分解性がある成分の開発が進み、様々な洗剤や液体石けんで用いられているようです。しかしながら、生分解の悪いものがまだ多く、水環境に生息する生物たちに影響を与え続けているのが現状です。
合成界面活性剤とは何か
合成界面活性剤とは、石油等から化学的に作られた界面活性剤です。ステアリン酸PEG、自ステアリン酸PEG250など約1440種類あり、液体石けんからシャンプー、洗剤、化粧品や生活用品まで多量に使用されています。代表的な界面活性剤は、衣料用洗浄剤に用いられる陰イオン界面活性剤の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、非イオン界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、衣料用柔軟剤に用いられる陽イオン界面活性剤のジアルキルジメチルアンモニウムクロリド(DAC)、身体用洗浄剤や台所洗剤で用いられる両性界面活性剤のアルキルジメチルアミンオキシド(AO)の4種類で、身近な洗剤や洗浄剤の原料として広く使われています。
合成界面活性剤が環境や人体に及ぼす影響
合成界面活性剤が河川に流出したあと、生分解されない場合、水生生物の体内に蓄積され、場合によっては死に至る可能性もあります。これにより、水環境で生息する藻類やミジンコ、魚などの生物の生態系に大きく影響します。特に生分解されない毒性成分については、水環境から取り除くことが困難なため、長期間に渡り生物に影響を与えます。
現在では環境維持や保護として、水環境において界面活性剤の毒性調査と評価が定期的に行われています。河川や湖、海などの水環境から水を採取し界面活性剤の濃度を測定し、水環境に影響を及ぼさないとする予測濃度値と界面活性剤濃度値を比較することで、水環境に及ぼす影響を予測します。界面活性剤の予測濃度が影響濃度より低い場合は、環境リスクは小さいと予測されます。
合成界面活性剤は、液体石けんや洗剤だけでなく、化粧品にも多く含まれています。合成界面活性剤は洗浄力や脱脂力が高いという特徴がありますが、肌への刺激が強いほか、保護する皮脂を過剰に取り除き、肌が保有する水分を放出します。これらの肌への強い作用により、肌荒れを引き起こす可能性があり、残留合成界面活性剤は、皮膚下へ浸透し経皮毒の原因になるとも言われています。